一人目の女 黒日売
1人目は、吉備海部直の娘の黒日売で、仁徳天皇は美しい娘がいると聞いて呼びよせたんだけど
大后の石之日売命の妬みがひどすぎて、実家の吉備へ逃げ帰ってしまったんだ。
仁徳天皇は黒日売が恋しくてたまらないので、淡路島へ出張だと嘘をついて黒日売に会いに吉備へ行ったよ。
黒日売は天皇に食事を献上したんだけど、二人で青菜を摘んでいたとき、仁徳天皇は
ただの青菜摘みも「吉備のかわいこちゃんと摘むと楽しいなあ」とゆうようま歌を歌って、つかの間の逢瀬を楽しんだんだ。
仁徳天皇が帰るときには黒日売は名残惜しくて
「あなたのことは忘れない」とか、「私と密かに心を通わせ帰っていくのは誰の夫?」など
切ない歌を歌ったよ。
二人目の女 八田若郎女
二人目は、仁徳天皇に皇位を譲って死んでしまった宇遅能和紀郎子の上の妹の八田若郎女を恋人にしたんだけど、
大后が収穫祭の後の宴会のために御綱柏(ミツナガシワ=先端がとがって三つに分かれた大きな葉)を採りに紀伊国(和歌山)に行っている間に、八田若郎女を呼び寄せて、昼も夜もイチャイチャしてすっごく楽しんでいたんだけど
噂はすぐにまわってしまったんだ。
紀伊国で御綱柏(ミツナガシワ)を採っていた大后の乗った船の中で使用人からその噂話をきいた倉人女(クラヒトメ=使用人の女)はすぐ大后に伝えたよ。
仁徳天皇と八田若郎女の浮気を知った大后は、大いに怒り狂い
儀式に使う予定だった御綱柏(ミツナガシワ)を全て海に投げ捨てたんだ。
すねた大后は、宮廷には帰らず山代の筒木(京都府田辺町)の韓人の奴理能美という人の家に泊まり仁徳天皇に家出したことを匂わせるような歌を送ったよ。
仁徳天皇も歌を返そうと丸邇臣口子を派遣したんだけど
怒った大后は受け取ろうとしなかったもんだから、雨の中跪いていた丸邇臣口子の着物はびっしょびっしょに濡れていたんだ。
丸邇臣口子の妹の口日売は大后に仕えていたから、そんな兄を見て涙が止まらなくなって
奴理能美と兄と三人で相談して、大后には変な下心(嫉妬から来る仁徳天皇への反逆)などはなく、
ただ珍しい虫を見にこちらに来ただけと伝えたよ。
その虫とは蚕(カイコ)で、一度は這う虫となり、次は殻(カイコ)となり、次は飛ぶ鳥になる、三色に変わる奇怪な虫で、それを見に行ったのだというと、天皇も不思議なので見たいといって大后のところまで迎えにきたんだ。
それでも仁徳天皇は八田若郎女が恋しくて、歌を送ったよ。
仁徳天皇と別れた女性は、ランクが上がるから、他の男性から引く手あまたになるんだけど、
仁徳天皇は八田若郎女がそうなるのが悔しいけどずっと一人なのも心配だと伝えたんだ。
八田若郎女は、一生独身でもそれを天皇が望むならそれでいいと言ったので
これをたたえて八田部を定め、八田部という名が残ったよ。